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 アイコン 獄誕おまけ小説

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   こちらは2011年の獄誕イラストののオマケで書いたものになります。

   内容的には「ごくつな+山本」という感じで、獄寺くんの受難編です(笑)



   少しずついろいろ同時進行で書いておりましたので、

   時間が経過してしまった分、文章の書き方や表現の仕方が若干変化しとっとります(- -;)
   本当にすみません………!


   それでもいいよ!と言ってくださる方は、どうぞ下にスクロールしていってください^^*

 ライン ライン

◇9月9日金曜日。午後5時半。並盛町、沢田宅◇

「かあさ〜ん!じゃあ、行ってくるから!」

「はいはい、気をつけていくのよ。獄寺くんによろしく言ってね」

キッチンから聞こえてくる母の声に「うん」と軽く返事を返して、ご馳走の入った大きな紙袋をかかえて玄関のドアを押し開く。

今日は獄寺くんの誕生日だから、彼のうちでお祝いをすることになってる。

最初はみんなも呼んで、うちでパーティを開くつもりだったんだけど、

「ぜひうちにいらしてくださいっ!」

って、獄寺くんに熱くお願いされて、なかば押し切られるように決まってしまった。

しかも、俺が承諾する頃にはお泊り会って話になっていて、「夜通し盛りあがろうぜ〜!!」って、山本はやる気満々だ。

「誰もおめーなんか誘ってねぇよ!? 俺とじゅうだいめだけで十分だっ!」

「なんだよ獄寺〜。べつに照れることねぇだろ〜? 楽しみだよなぁ! なぁ?ツナ!」

「う、うん」

俺は体のでかい山本に肩をがっしりと捕まえられて、ぐらぐらと体を揺すられる。

(うぅ、山本、力強いよ〜。

それより山本、絶対酒持って来そうだよなぁ…。大丈夫かな…)

  俺がそんなことをちょっと心配している横で、ふたりは今もギャーギャーとじゃれ合っている。

(ホント仲いいよなぁ…。山本と獄寺くん――)

俺はこうやってふたりの掛け合いを見てるのが結構すきだ。

(まぁ、当日のことはどうにかなるかな?

…あんまりハメを外したらリボーンのお仕置きが恐いんだけど…。)

俺はそんなスパルタ家庭教師のにんまり笑う顔を思い出して、思わず小さく身震いした。

「ありゃ?なんだツナ、風邪か?」

そんな俺に、すかさず山本が顔を覗きこんで、様子を伺ってくる。

「えっ!?じゅうだいめ、お体の具合が悪いんですか!?」

そんな山本のひとことに、獄寺くんまで俺の顔を覗きこんで必死になっている。

(ちょっとふたりとも、顔が近いんだけど…)

「いけません、すぐに保健室に行きましょう!

――おい野球バカ!さっさとじゅうだいめを離しやがれっ!」

すかさず山本にくってかかった獄寺くんに、俺はなだめるように声をかけた。

「大丈夫だよ、何でもないから。

―それより当日楽しみだね!何時に集まろっか」

そんなささいなことにも気付く、気配り屋の山本と、

俺を一番に考えてくれてるんだけどそれがあんまり実を結ばない、

ちょっと強面の獄寺くんに、俺は心が温かくなった。

(ふたりとも全然違うタイプの人だけど、

俺のことをすごく大事に思ってくれてるんだよなぁ…)

「ホントに大丈夫か、ツナ? 無理しない方がいいぜ」

「そうですよじゅうだいめ。季節の変わり目は体を崩しやすいですから」

(ホラね、こんなにも…)

「うん、ホントに平気なんだ。

―ちょっとリボーンの事思い出したら勝手に体が震えちゃってさ〜。

ホラ、あいつマジでおっかないから」

あははって笑い返すと、

「それじゃあ仕方ないのな」

「リボーンさんは最強の殺し屋ですからね、無理もないです」

って、ふたりして律儀に反応してくれる。

(友達ってほんといいよね…。

この関係が、ずっと続いていけばいいのに……)

確証の持てない未来のことを考えて、そんなことを思いつつも、

そのあとはパーティ当日のことを、三人で楽しく話し合った。



「それにしても楽しみだなぁ…!三人で泊まりなんて久しぶりだもんな〜」

意気揚々と家を飛び出して、門扉を抜けようとしたその時。

見慣れた黒い影が、ツナの目の前に飛び出した。

「気ぃ抜いてんじゃねーぞ、ダメツナ。あんまり浮かれてるとそのうち痛い目見るぞ」

「リ、リボーン!!」

見た目かわいい黒ずくめの赤ん坊は、ツナに向かってニヒルな笑みを向ける。

俺は心の中で「げっ!」とか「ぎゃ〜!」とか言葉にならない悲鳴をあげた。

「な、なんだよ。危ないじゃないか!

俺急いでるんだから、そこどいてくれよ」

「―ったくダメツナが。急ぐくらいなら、もう少しはやく家を出ようって気にはならねぇのか」

――ニヤニヤ。

リボーンは俺の顔を見て、ひたすらニヤついている。

その様子に、俺は思わず一歩引いた。

(こういう顔してるときのコイツは、ロクなコト考えてない…!

だから会いたくなかったのにぃ〜!)

俺はしばらく考えて、

(…触らぬ神に祟りなし。とりあえずここは強硬突破するか!?)

そういう考えに落ち着いた。

「――おい、ダメツナ。情けねぇこと考えてんじゃねぇぞ。

俺は暇じゃねぇんだ。お前に用なんてねぇ。

――それより、獄寺んちに行くんだろ?ついでにこれも持ってけ」

そう言い終わると、リボーンの振り上げた腕からバサリと音を立てて、大きな紙袋が降ってきた。

「……なにこれ?」

「まぁ、開けてみりゃー分かる。…俺とビアンキからのささやかな贈り物だ」

  可愛らしい口もとに浮かぶ、心なしか楽しそうな笑み。

(―うぅ、なんか嫌な予感がする…)

「別におまえにやるんじゃねーぞ。今日は獄寺の誕生日だろ?

ちゃんと獄寺に渡せよ」

「……ふぅん、獄寺くんにね。

わかったよ、ちゃんと渡す。

―じゃあ俺、時間無いから行くからな!」

とりあえず面倒なことにならなくて良かった。

もうこれ以上変なことに関わり合いたくなくて、ツナはその場を全速力で駆け出した。



―― 一方、その場にひとり残された赤ん坊は ――。

「ったく、ひとがせっかく気にかけてやってんのに。

ダメツナの奴、ホントに肝がちいせぇな。」

教え子のはしり去った方角を見て、大きなため息をひとつ。

「――まぁいいか。

今日の夕飯はご馳走だからな」

帽子のつばに手をかけて、おもむろにニヤッと笑う。

彼は目の前の道に、もう一度だけ視線をやると、上機嫌でその場を後にした。

  ――真っ赤な夕日が、歩き去る赤ん坊の背中をこうこうと照らしていた。



◇午後5時55分。並盛町、獄寺宅◇

  沢田家からすこし距離の離れた大きなマンション。

オートロック完備の玄関フロアを抜けて、これまた広々としたエレベーターに乗り込む。

それから5階のボタンを押して、ゆっくりと上がってゆく外の景色を眺める。

ちょうど視線の先に、ツナ達が通う並盛中があって、そのもう少し先にツナの家がある。

学校を挟んでまったく反対側なのに、毎日、獄寺くんは俺を送り迎えする。

遠いしいいのにって思って、それを申し出たこともあったけど。

でも、いざ今それが無くなったら、きっとさびしいって思うんだ。

(俺も慣れちゃったのかな…)

もうそれがあたり前の日常になってしまったから。

そんなことを考えていたら、あっという間に5階のフロアに着いて、重そうなドアがゆっくりと開いた。

そこから右手の通路を進んでいくと、509号室。これが彼の部屋。

『ピンポーン』

呼び出しのベルを鳴らしてしばらく待つと、ドアの奥で『ドタドタ、バタン、ドササッ、バタン』って

騒がしい音が聞こえてきて、俺はなんだかちょっと笑ってしまった。

(どう考えてもあわてすぎだろ。

そんなに急がなくてもいいのになぁ)

  獄寺くんって一見強面で近づきにくいんだけど、なんだかそういうところが、ちょっと可笑しくて憎めないんだよね。

  俺はドアから一歩さがって、それが開くのを待った。

そしたら目の前のドアが『ガチャ、ガチャガチャ』って音を立てて、ぐわっと派手に開いたんだ。

その瞬間、思わず俺は目を閉じていた。

(な、情けない…。条件反射とはいえ、思わず目を瞑ってしまった…)

「い、いらっしゃいませ、じゅうだいめ!! お待たせしてしまい申し訳ありませんっ!

ささっ、中へどうぞ」

息を切らしつつも、満面の笑顔で出迎えてくれた彼に軽くお礼を言って、

俺はドアの中へと身を滑り込ませた。



(やっぱりきれいな家だな〜)

リビングルームに通された俺は、ひさしぶりに来た彼の部屋を見て、思わずため息をついてしまった。

モノトーンでそろえた2LDK。

リビングにはソファと、ふわふわのラグの上に置かれた小さなテーブルがひとつ。

あとはテレビなんかがあるだけ。

俺の好きなゲームは、あのシックなテレビ台の下におさまってる。

(俺の部屋とは全然違うのに、なんでか落ち着くんだよな〜。

きれいに片付いてるから…?

それともリボーンがいないせいかな)

小さな家庭教師に失礼なことを考えつつ、促されたソファに身を沈めた。

「じゅうだいめ、飲み物は何がいいですか?

まだ山本の野郎が来てないっすけど、お疲れでしょう?コーラと麦茶も用意してますよ」

俺の荷物を奪うように運び入れてくれた獄寺くんが、いつの間にかキッチンから冷えたグラスを持ってきて、

テーブルの上にコツンと置いた。

グラスは白く曇っていて、数時間前から冷やしてあったことが分かる。

(獄寺くんってこういうとこ、ヘンにまめなんだよね)

獄寺くんらしいというか、何というか。

いつも一生懸命な彼らしくて、ちょっと心があったかくなる。

「じゃあ、コーラで」

「はい、分かりました。ちょっと待っててくださいね」

彼はニコッと笑うと、そのままキッチンへと消えていった。

俺はその後ろ姿を目で追って、心の中でひとりごちる。

(獄寺くんってホント綺麗なひとだよだよなぁ。

…何してても様になるし。

でも俺にはあんなに自然に笑えるのに、普段はいっつもしかめ面だもんな。

ある意味、すごいまっすぐなひとだよなぁ…)

そんなことを考えていたら、獄寺くんが奈々特製のごちそうを山盛りに盛った皿と、

コーラを持って戻って来た。

「あっ!ごめんね、俺が用意すればよかったのに、気が回らなくて…」

獄寺くんちに着いてすぐ、料理やケーキの入った荷物は彼に奪われてしまった。

祝われる方に支度をさせるなんて、なんかおかしいだろう。

「――いいえ、いいんです!

じゅうだいめがうちに来てくださっただけで、俺はすげー嬉しいんです!

どうぞそのままソファーに座っててください」

なぜか頬を淡く染めてそう言われてしまえば、「そ、そうかな」なんて気の効いた言葉は全然出てこなくて、

準備が終わるのを、俺はそのまま身を縮めて待っていた。



『ピンポーン!ピンポン、ピンポン、ピンポ〜〜ン!!』

「げっ!やっと来たか野球バカ…!

しかもふざけたことしやがって」

俺が来てからしばらくして、獄寺くんちのインターホンがけたたましく鳴り響いた。

こんなことをするのは、どう考えても山本しかいない。

俺も獄寺くんに続いて玄関に向かった。

『ガチャ、ガチャガチャ』

「―おい!うるせーぞ野球バカ!

てめぇはもうちょっと普通にできねーのかよ!」

ドアを開けると大きな包みを持った山本が、部屋前の通路をふさいでいた。

「わりぃわりぃ、なんせ両手がふさがっててさ。重いのなんの。

――ホラこれ、俺からの誕生日プレゼント!

竹寿司特製、特上ジャンボちらしだぜ!」

「…あぁ、そうか、すまねぇな。

ってお前、これただの差し入れじゃねーか!」

なんとなく予測出来たその出来事に、俺はふたりを代わる代わる見て、ちょっと笑ってしまった。

「そーなのか?いろいろ考えたんだけど、プレゼントってちっとも思い浮かばなくてさ〜。

やっぱりコレが一番かなって思ったんだけどな〜」

「……分かった。

とりあえず中に入れ。

――じゅうだいめ、お待たせしてすみませんでした。

オラ、野球バカ!さっさと始めるぞ!」



獄寺くんは山本からちらし寿司のたらいを引ったくると、ズンズンと室内へ進んで行ってしまった。

(獄寺くん、嬉しいくせに。

…ホント照れ隠しが下手だなぁ)

そんな彼を可愛く思って、「ごくろうさま」って山本に目配せしたら、

山本も同じことを考えてたみたいで、「ニカッ」と笑って返事をくれた。

そして、そんなこんなで俺たちの賑やかな宴は幕を開けたんだ。



小さなテーブルいっぱいのご馳走を囲んで、俺たちは床に腰を下ろした。

部屋奥のソファの前に俺、その右隣りが獄寺くん。そして左隣が山本だ。

ふつうは今日の主役が真ん中だろうと思ったんだけど、獄寺くんがこれでいいって言うから、

とりあえずこのまま落ち着いてしまった。

「じゃあ、獄寺の誕生を祝してかんぱ〜い!!」

席について早々、ビールを開けてほろ酔いの山本が、勢いのまま乾杯の音頭をとった。

「――っておい!

なんでテメェが仕切ってんだよ!」

すかさず獄寺くんが吠えたけれど、俺がなだめると彼は仕方なさそうに小さくなった。

「ええと、早速だけど今度は俺からのプレゼントね。

実を言うと俺も何をあげていいのかわからなくてさ。

それでコレ、誕生日ケーキ!」

ニコッと微笑みかけると、彼は途端にびっくりしたような顔になった。

「うちで母さんと作ったんだ。…おいしいといいんだけど。

じゃあ、火つけるね」

俺は感激そうに見つめてくる獄寺くんに微笑み返すと、

歳の数だけろうそくを刺して、火を灯していった。

「よし、電気消すぞ〜!」

すかさず山本が動いて明りを消してくれる。

その儚い光の中に、獄寺くんのきれいな輪郭が、淡く浮かび上がった。

「この歳でちょっと恥ずかしいけど、お決まりだし。 ――せーのっ!」

俺は山本と一緒に定番のバースデーソングを歌った。

それとともに、心なしか淡く浮かぶ獄寺くんの瞳が、若干潤んできたように見えた。

「誕生日おめでとう、獄寺くん!」

「獄寺おめでとな〜!」

俺たちは口々にお祝いの言葉を述べると、こっそり用意していたクラッカーを派手に打ち鳴らした。

それに当の獄寺くんはと言うと、半ばボー然としている。

――目に涙を浮かべて。

「ホラ、獄寺くん。火を消して」

そんな彼に俺が小さくささやくと、彼は弾かれたように俺を見つめて、

赤く頬を染めながら一気にそれを吹き消した。

山本が電気をつけ直すと、案の定彼は泣いていた。

それも、ものすごい号泣だ。

鼻水も涙も垂れ流し。

「じゅうだいめ、俺嬉しいッス…!

じゅうだいめが作ってくださったケーキを囲んで、じゅうだいめが俺のために歌をうたってくださって、

いままでのどんな誕生日より、俺の特別になりました…!」

「――おい獄寺〜。俺もいんだけどな〜」

「うるせぇ野球バカ!ちっと黙ってろ!」

「はいはい、獄寺くん。とりあえず鼻水かもうか」

俺がティッシュを取り出すと、彼は素直にそれにしたがった。

『チ〜ン』

「獄寺って感激屋だよなぁ〜!おもしれーの!」

「うるへぇ、やきゅうばか!おめーに俺の気持ちがわかってたまるか〜!」

そんな二人の掛け合いを俺は微笑ましく見つめながら、

(獄寺くんってちょっと生い立ちが複雑みたいだし、

こういうパーティって初めてなのかな…?

こんなに喜んでもらえるんなら、来年はやっぱり他のみんなも呼んで、

うちでパーティーをしてあげよう!

…きっとその方がいいよね!?)



――と、のほほ〜んと考えていた。

そう、この時までは………!





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